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2026.2.20 分子栄養学「なぜか疲れが取れない」原因は貯蔵鉄不足?

妊娠前・妊娠中・産後

分子栄養学「なぜか疲れが取れない」原因は貯蔵鉄不足?

「しっかり休んでいるのに疲れが取れない」
「階段を上るだけで動悸がする」
「最近、やる気が出ない」

その原因、実は「貯蔵鉄不足」かもしれません。

今回は主に貯蔵鉄とは何かについての基礎から、「貯蔵鉄が少ない状態」との関連が報告されている症状に焦点を当て、文献に沿って解説いたします。

鉄欠乏性貧血になる前の段階でも不定愁訴!?

「鉄不足=貧血」と思っている方は少なくないでしょう。

鉄の大切な働きのひとつは、赤血球の構成成分「ヘモグロビン」の材料となることです。ヘモグロビンは、酸素と結合して全身の細胞に酸素を運ぶ働きを担います。

鉄不足によりヘモグロビンが減少し「鉄欠乏性貧血(以下、貧血)※1」が進行すると、酸欠により全身の細胞におけるエネルギー産生量が低下し、さまざまな不定愁訴の一因となることが世界中で重要視され、研究されています。

しかし近年の研究では、貧血になる前の段階から、すでに身体と心に深刻な影響が生じる可能性が報告されています※2、※3

そのキーワードとなるのが、貯蔵鉄の減少です。

鉄欠乏=貯蔵鉄量が少ない状態がキーワード

英語の医学論文の世界で「貧血になる前の段階」を表す用語のひとつに、

・絶対的鉄欠乏(absolute iron deficiency.以下、鉄欠乏)※4

があります。鉄欠乏は、2015年、2025年の論文において「貧血の有無に関わらず、貯蔵鉄が少ない状態」との定義が紹介されています※2、※5

鉄が足りない状態が続くと、最初に貯蔵鉄が減少します。そしてさらに不足が続くと血清鉄が減り、最後にヘモグロビンが減少し、WHO(世界保健機関)の定義「貧血=ヘモグロビン濃度が減った状態」として診断されます。

貯蔵鉄とは体内の鉄の貯金のことで、あらゆる細胞にとって重要な栄養素である鉄は、余るとタンパク質と結合して肝臓などに貯蔵鉄(フェリチンなど)として貯えられます。

ここで重要なのは貧血があってもなくても、貯蔵鉄量が少ない状態では心身に悪影響を及ぼすとして、世界中で研究が進められていることです※2、※3、※5

鉄欠乏で起こりうる症状

貧血の有無に関わらず、鉄欠乏では、以下のような症状が生じる可能性が報告されています。

・疲労感※6、※7
・めまい※6
・息切れ※6
・耳鳴り※3
・蒼白※3
・頭痛※3
・気分の変調(イライラ、抑うつ)※8
・集中力・注意力の低下※3、※7
・むずむず脚症候群※3、※6
・異食症(氷への渇望など)※9
・運動耐容能の低下※2
・心不全の悪化※10 など

貧血があってもなくても、鉄欠乏では無症状の場合もあると報告されています。しかし無症状の状態であっても、

・身体運動能力
・小児の神経認知発達(child neurocognitive development)※3
・妊産婦の健康※11

などに対し、最適ではない状態を招く可能性が指摘されています※3

金子メソッドと貯蔵鉄(血液検査項目:血清フェリチン値)

2025年の論文では、鉄欠乏を見抜くため、検査すべき血液検査項目における第一選択として、

・血清フェリチン値

が報告されています。血清フェリチン値が低値を示す唯一の原因が、鉄欠乏だからです※2、※12、※13

血清フェリチン値は、分子栄養学における血液データ解析に基づく個別化栄養療法(金子メソッド)において重要視している項目のひとつです※14

金子メソッドでは鉄欠乏性貧血の指標であるヘモグロビンの変化の前に、血清フェリチン値などによって検出できる「潜在性鉄欠乏症(貧血を伴わない鉄欠乏症)」において、多くの未診断症状が生じる可能性を重要視しています※14

※金子メソッド(Kaneko’s method)とは?血液データ解析に基づく個別化栄養療法

金子メソッドにおける貧血や赤血球産生などに関わる血液検査項目の詳細は、下記リンクをご覧ください。

※血液・尿検査の意義④「基本検査 Ⓔ 血球」
※栄養素不足による貧血改善対策「貧血再検査項目」のススメ

炎症で起こる⁉ 機能性鉄欠乏という落とし穴

数々の論文では鉄欠乏が起こるメカニズムが、大きく以下の2つに分けられています※2、※3、※5

①絶対的鉄欠乏(absolute iron deficiency)
貯蔵鉄が個人の必要量を満たせない状態。多くの場合、
・食事からの鉄摂取量が少ない
・鉄の吸収不良
・出血などによる鉄損失量が多い
などにより、鉄の出納のバランスが崩れて貯蔵鉄が減少する。

②機能性鉄欠乏(functional iron deficiency)
体内の貯蔵鉄量が十分にあるにも関わらず、炎症などにより鉄が使えない。

上記②は慢性的な炎症や感染症がある場合などに、貯蔵鉄(フェリチン)があるにもかかわらず、それを使えないという状態に陥ることが報告されています※5

また上記①と②は同時に貧血を引き起こす可能性※3、血清フェリチン値は炎症などで高値を示すことなどから、健康維持のための血液検査データの読み込みには注意が必要です。

血液検査を活用した未来の健康づくり

食事由来の鉄には、非ヘム鉄、ヘム鉄の2種類があります。貧血の予防対策や治療では、特に吸収率の高いヘム鉄(動物性食品(赤身肉や魚介類)由来)の十分な摂取を勧める論文が存在します※15、※16

分子栄養学ではヘム鉄を中心とした食事由来の鉄、タンパク質、食物繊維、ビタミン・ミネラルを含んだバランスの良い食事による、栄養素の摂取・吸収・代謝が円滑に行われるような総合的な健康づくりを目指します。

※貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー不足を招く分子栄養学の重大問題

定期的な献血※5、菜食主義※17、ヘリコバクター・ピロリ感染※18でも鉄欠乏の可能性が報告されています。

なんとなくの不調を防ぎ、せっかく摂った食事の鉄が有効利用されるように腸内環境を整え、詳細な問診や血液検査データ、そして分子栄養学実践医師によるモニタリングを活用し、客観的かつ効率的な方法で健康維持増進を目指しましょう。

※1 貧血にはビタミンB12・葉酸不足で起こる巨赤芽球性貧血など、いろいろな種類があります。今回の記事では鉄欠乏性貧血に焦点を当ててお届けしています。

※2 Auerbach, M.,et al. Iron Deficiency in Adults: A Review. JAMA. 2025;333(20):1813-1823.

※3 Pasricha, R.,et al. Iron deficiency. Lancet. 2021;397(10270):233-248.

※4 論文では、鉄欠乏症、鉄欠乏の両方の用語が使用されており、今回は「鉄欠乏」に統一してお届けしています。

※5 Camaschella, C. Iron-Deficiency Anemia. New England Journal of Medicine. 2015, 372 (19), 1832-1843.

※6 Di Angelantonio, E.,et al. Efficiency and safety of varying the frequency of whole blood donation (INTERVAL): a randomised trial of 45000 donors. Lancet. 2017; 390(10110):2360-2371.

※7 Favrat, B.,et al. Evaluation of asingle doseofferric carboxymaltose in fatigued, iron-deficient women—PREFER,arandomized, placebo-controlled study. PLoS One. 2014;9(4): e94217.

※8 Wassef, A.,et al. Anaemia anddepletion ofiron stores as risk factors for postpartumdepression: a literature review. Journal of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology. 2019;40(1):19-28.

※9 Achebe, MO.,et al. Pagophagia andrestless legs syndromearehighly associated with iron deficiency and should be included in histories evaluating anemia. American Journal of Hematology. 2023;98(1):E8-E10.

※10 Beverborg, NG.,et al. Differences in clinical profile and outcomes of low iron storage vs defective iron utilization in patients with heart failure: results from the DEFINE-HF and BIOSTAT-CHF studies. JAMA Cardiology. 2019; 4: 696-701.

※11 Daru, J.,et al. Risk of maternal mortality in women with severe anaemia during pregnancy and post partum: a multilevel analysis. Lancet Global Health. 2018;6(5):e548-e554.

※12 Guyatt, GH.,et al. Laboratory diagnosis of iron-deficiency anemia: an overview. Journal of General Internal Medicine.1992;7(2):145-153.

※13 Ko, CW.,et al. AGAclinical practice guidelines on the gastrointestinal evaluation of iron deficiency anemia. Gastroenterology. 2020;159(3):1085-1094.

※14 Arakaki, M.,et al. Personalized Nutritional Therapy Based on Blood Data Analysis for Malaise Patients. Nutrients. 2021; 13(10): 3641.

※15 Piskin, E.,et al. Iron Absorption: Factors, Limitations, and Improvement Methods. ACS Omega. 2022;7(24):20441-20456.

※16 Zijp, IM.,et al. Effect of tea and other dietary factors on iron absorption. Critical Reviews in Food Science and Nutrition. 2000;40(5):371-398.

※17 Hurrell, R.,et al. Iron bioavailability and dietary reference values. American Journal of Clinical Nutrition. 2010;91(5):1461S-1467S.

※18 Hudak, L.,et al. An updated systematic review and meta-analysis on the association between Helicobacter pylori infection and iron deficiency anemia. Helicobacter. 2017;22(1).

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