The Orthomolecular Times

2025.8.8 分子栄養学の食事「カルシウムを多く含む食品」

分子栄養学とは

分子栄養学の歴史③「日本の分子栄養学の夜明け」

2023年、「分子整合栄養学(Orthomolecular Nutrition)」という言葉が生まれて55年目の春。

(※このウェブマガジンの中では分子整合栄養学に代わり、分子栄養学という言葉を用いています。)

今回は分子栄養学の歴史第3回。日本においてどのような考えに基づき分子栄養学が導入され、どのようにして分子栄養学が広まり、どのようにして血液検査データを用いた日本独自の分子栄養学の方法として発展していったのか、その歴史をお送りします。

日本の医療体制

国民皆保険制度のある日本では、保険診療の範囲内で比較的安価に治療を受けることができ、病院にかかることへの敷居が低いがゆえか、予防医療が広く浸透しているとはまだまだ言い難いところがあります。

また、一般の皆さんの間で身体の仕組みに関する理解が十分であるとは言えず、病気に罹った際に医師から提案された治療法が、副作用も考慮した上で自分にとって本当に望ましいものなのか判断することが困難となっています。

一般的に、日本の現代医療では発症に至った根本的な原因の解決までは考慮されないことが多く、薬で症状を抑える対症療法が中心です。この背景には、多くの患者が来院し多忙を極める日本の医療現場では、病気の根本原因を探ることができるほど多くの時間を一人ひとりの患者に割くことが難しいという理由などが存在しているものと考察されます。

しかし病気になってから気付くのではなく、病気になる前に予防し、健康を増進する一次予防の大切さが2000(平成12年)年から展開されている「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21、厚生労働省)」において重点がおかれています。

如何に国民の一人ひとりの皆さんに健康を維持増進することを実践していただくか、国全体の保健医療の分野でその方針が進められています。しかし、現実として国民医療費がうなぎ登りのままというのが現在の日本の現状です。

※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か

日本の分子栄養学の夜明け

分子栄養学に関する考え方として、

・医師が血液検査データを参考情報として活用する

という手法が存在します。

1991年、この血液検査項目の体系化を行ったのが、ライナス・ポーリング博士に師事した金子雅俊博士です。

金子博士は「人々の健康に関する研究」を続ける中で、1970年代に渡米し、ライナス・ポーリング博士から分子栄養学について学びました。

金子博士は、ポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士(※分子栄養学の歴史②)をはじめとするパイオニアたちとの交流を通じて「個々の栄養素に関する理解と分子栄養学について研究することの意義」について考察を深めました。

そして分子栄養学を日本に紹介するため帰国し、研究を継続しました。

日本に分子栄養学を持ち帰り、この考えを広めるにはどうしたら良いか思案していたとき、金子はある金言を授かります。それは、「分子栄養学を説くなら、家庭の健康を管理しているのは主婦だから、まずは主婦に伝えなさい」というポーリング博士のお言葉でした。

分子栄養学を日本に導入するために帰国した金子は、ポーリング博士の教えを胸に「自分の健康は自分で守りましょう。そのために、自分の身体を知りましょう」とコンセプトを掲げ、自分自身の健康管理のために共に学ぶ同志を募りました。

金子はこの呼びかけに賛同する同志を集めて「金子塾」という勉強会を開講し、自身がアメリカで学んだ健康維持増進のための分子栄養学の知識のすべてを惜しみなく伝えました。

当初、金子塾は寺子屋スタイルの非常に小さな勉強会でしたが、その内容は最新の科学的知見を濃縮した、他所では学ぶことのできないものでした。

参加者は医師等の専門家ではない一般家庭の主婦がメインでしたが、金子は参加者一人ひとりの質問に真摯に向き合い、彼らが身体の仕組みを理解して栄養素による健康管理を実践できるようサポートを惜しみませんでした。

やがて、参加者が参加者を呼んでこの勉強会は全国各地で開催されることとなります。そしてこの勉強会を起点とする健康自主管理運動は、Know Your Body運動(略称 : KYB運動)の名で草の根運動的に全国に展開していきました。これがKYBグループの原点です。(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か

全身の健康状態を可視化する血液検査項目セットの考案

金子博士は、分子栄養学に関する理解を広めるために、健康状態に関する情報を整理するシステムについて検討しました。

血液検査に着目したのは、血液中には栄養素や代謝物質が含まれ、血液成分が身体の状態を反映して変化するという生理学的事実があるためです。

この仕組みを参考として、血液検査による健康状態の情報収集について研究し、必要と考えられる検査項目を選定した自費検査項目セットを考案しました。

これらの血液検査データからは、従来の臓器機能評価に加えて、各検査項目の生化学的特性を参考として、栄養素に関する状態について情報を収集することができます。

この血液検査項目セットは、日本の分子栄養学の普及と発展に大きく貢献しました。

現在も、分子栄養学を学ぶ医師、歯科医師、コメディカルなどの数は増え続け、日本で広がっている分子栄養学に基づく栄養療法を行う多くの医療機関では、この血液検査セットを原点とした血液検査の数々が行われています。

そしてこの方法はライナス・ポーリング博士が提唱したオーソモレキュラーという概念をもとに、一人ひとりが自分の健康を管理する、日本独自の方法として発展し続けています。

世界中の科学者たちの助力を得て

金子は帰国後も世界中の科学者たちと積極的に交流を続けており、彼の日本での粉骨砕身に、海外の分子栄養学のパイオニアたちも金子の活動に協力を惜しみませんでした。

1984年のKYBグループ創立以来、KYBグループ主催イベントには総勢23名、ライナス・ポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士をはじめ、ヒュー・リオールダン博士、マイケル・レッサー博士、バリー・マーシャル博士など著名な科学者たちが出席し、日本での分子栄養学の普及と発展を願って多数の講演を行いました。

分子栄養学が日本に導入されて2024年で40年

金子が日本に分子栄養学の概念をもち帰って2024年で40年が経過した現在。

KYBグループでは、彼の理念に賛同をいただいた、のべ38万人を超える皆さんが自分自身で行う健康管理のサポートを行ってまいりました。日本でも分子栄養学に基づく栄養療法を看板に掲げる医療機関が確実に増えています。

分子栄養学は今後も個々の栄養素の重要性を考え、適切な知識の普及を通じて、一人ひとりが日々の健康管理を主体的に行えるようなサポートを目指します。

KYBグループの提案する取り組みは、医師や専門家と連携しながら生活習慣や栄養バランスを見直すことで、一人ひとりの未来の健康づくりを支える選択肢を提供してまいります。

分子栄養学とは何か?歴史シリーズのご案内

この55年という節目に際し、新しい栄養学のパラダイム「分子栄養学」とは何か、その概念を歴史シリーズ第1回  ※分子栄養学の歴史① の中で改めてしっかりと捉え直しました。

第2回 ※分子栄養学の歴史②では、分子栄養学の生みの親ライナス・ポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士が、どのようにしてこの新しい概念、新しい栄養学のパラダイム※1にたどり着いたのか、ポーリング博士が、どのようにしてそれまでにない革新的な考え方に基づいて人間の健康を捉え直そうと「orthomolecular(分子整合)」という言葉を提案したのかを振り返っています。

私たち自分自身の健康を、医師とともに「分子」から考える分子栄養学の歴史を、ぜひご一読ください。

※1 パラダイム
パラダイムとは、科学の領域でよく使われる言葉で、ものごとの規範となる考え方、方法論、あるいは枠組というような意味です。

※2 E. Merzon, et al . Low plasm 25(OH) vitamin D level is associated with increased risk of COVID-19 infection: an Israeli population-based study. FEBS Journal,287(17):3698-3702.(2020) 

※3 P.C. Ilie, et al . The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging clinical and experimental research, 6: 1-4.(2020)

※4 L. Malaguarnera, et al . Vitamin D3 as Potential Treatment Adjuncts for COVID-19. Nutrients, 14: 12(11): 3512.(2020)

※5 P. Holford, et al . Vitamin C- An Adjunctive Therapy for Respiratory Infection, Sepsis and COVID-19. Nutrients,12(12): 3760.(2020)

※6 D. Jothimani, et al . COVID-19: Poor outcomes in patients with zinc deficiency. International Journal of Infectious Diseases, 100: 343-349.(2020)

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