分子栄養学「老化を促進!? 糖化・AGEs（終末糖化産物）とは」

紅葉が色づき始める秋は、栗やさつまいも、新米などの糖質が美味しい季節です。

しかし過剰な糖は身体のコゲ（AGEs：終末糖化産物）を増やし、糖化が老化や病気につながることが示されています。

今回は、

・糖化とは
・身体のコゲ「AGEs」とは
・AGEsと老化の関係
・生体内でAGEs形成を促進する要因

などの基礎について、主に生体内におけるAGEs形成に焦点を当て、医師が文献に沿って解説いたします。一緒に学び、健康維持増進に生かしましょう。

基礎知識「糖化」、「AGEs：終末糖化産物」とは？

AGEs（Advanced Glycation End-products．以下、AGEs）とは、「終末糖化産物」と訳される生成物の総称です。

これは、私たちの体内で、私たちを構成する

・タンパク質、脂質、核酸など
と
・余剰な糖（グルコース、フルクトースなどの還元糖）

がくっつくことによってつくられる、最終的な代謝産物です^{※1、※2、※3、※17}。AGEsは一度できてしまうと元に戻れない不可逆的な物質です^※4、※5。

生体内で起こるこの反応は、

・糖化（glycation）

と呼ばれます。糖化と同じ反応は、1912年に初めて報告されています^{※6、※7、※8}。

糖化の影響は、人体よりも先に食品の分野で研究されました^※9。糖化はホットケーキを焼くときに見られる、こんがりとした焼き色や香ばしい風味を生み出す反応で、その茶色くなった「コゲ」の部分に多く含まれるのがAGEsです。

酵素が関わらずに起こるこの反応（非酵素的褐変反応）^※10は、発見者（L. Maillard）の名前が命名され、メイラード反応と呼ばれます^※1。

一方、生体内で起こるメイラード反応を「糖化」と呼んでいます。生体内で起こる糖化反応を、食品で起こるメイラード反応に初めて関連付け、メイラード反応が老化に関わるとする論文は1980年代初め頃に発表されました^{※6、※7、※8}。

AGEsは食品では私たちに美味しそうな “こんがり” とした焼き色、香ばしい風味などを提供してくれますが、私たち哺乳類の身体にとっては有害な物質です^※4。体内に蓄積したAGEsは、さまざまな疾患や老化との関連が報告され、世界中で研究が進められています^※3、※4。

AGEsはなぜ身体に悪い？

体内で糖化によってつくられるAGEsは、例えば体内でタンパク質が「コゲた」状態とイメージしてください。タンパク質の糖化はタンパク質のかたち（分子構造）を壊すため、タンパク質本来の働きができなくなってしまいます^{※11、※12}。

またAGEsは、生体内で

・活性酸素種（ROS）の生成
・酸化ストレス
・炎症　

などを促進し、それが最終的に細胞を傷つけ、病気や老化につながる原因のひとつとして考えられています^※4、※13。

生体内でAGEs形成を促進する要因

生体内でAGEs形成を促進する要因として、例えば以下のようなものの関与が報告されています^※4。

・過剰または長期のアルコール摂取
・喫煙
・炎症^※13
・高血糖^※14
・酸化ストレス　など

生体内における酸化ストレスの上昇は「AGEsの蓄積を刺激する触媒として作用する可能性」^※4、そしてAGEsそのものも酸化ストレスを増やすため、AGEsと酸化ストレスの両方が悪い相乗効果を起こし、病態⽣理学的な状態を加速させる可能性が報告されています^※4。

AGEsの関与が示されている疾患の数々

骨粗鬆症、糖尿病とその合併症^{※12、※15、※16}、心血管系合併症、肝疾患、神経変性疾患、がんなどの病理にAGEsの関与を示す文献が存在します^※1、※4。

体内に蓄積したAGEsは、最終的に細胞機能に悪影響を及ぼし、さまざまな細胞反応を引き起こし、最終的には細胞の損傷や変性につながることが報告されています^※4。

アンチエイジングのために、生活習慣を見直す

AGEsは、正常な代謝や老化に伴いゆっくり蓄積されていくものです^※3、※4。しかし、酸化ストレス、炎症、高血糖状態では、その生成と蓄積が加速されると報告されています。

運動不足^※1、過度の紫外線暴露もAGEsの蓄積に寄与することが示されています^※3。

健康を維持するために、次のポイントを意識しましょう。

・適度な運動を習慣にする
・バランスの良い食事を心がける
・糖質の量を適切に管理する
・血糖値を良好にコントロールする
・禁煙する
・適度な飲酒にとどめる
・紫外線対策を行う

秋の美味しい糖質を楽しみながらも、これらの生活習慣を見直し、AGEsの蓄積を抑え、健康を維持するヒントとしていきましょう。
（※「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか？）
（※紫外線対策のススメ①紫外線が起こす酸化ストレスって何？）

※1　Shen, CY.,et al. The Development of Maillard Reaction, and Advanced Glycation End Product (AGE)-Receptor for AGE (RAGE) Signaling Inhibitors as Novel Therapeutic Strategies for Patients with AGE-Related Diseases. Molecules. 2020;25(23):5591.

※2　Aragno, M.,et al. Dietary sugars and endogenous formation of advanced glycation endproducts: emerging mechanisms of disease. Nutrients.  2017;9(4):385.

※3　Zhang, Y.,et al. Advanced Glycation End Products in Disease Development and Potential Interventions. Antioxidants (Basel). 2025;14(4):492. 

※4　Rungratanawanich, W.,et al. dvanced glycation end products (AGEs) and other adducts in aging-related diseases and alcohol-mediated tissue injury. Experimental & Molecular Medicine. 2021;53(2):168–188.

※5　Goldin, A.,et al. Advanced glycation end products: sparking the development of diabetic vascular injury. Circulation. 2006;114(6):597-605.

※6　Tessier, FJ. The Maillard reaction in the human body. The main discoveries and factors that affect glycation. Pathologie Biologie (Paris). 2010;58(3):214-219.

※7　Takahashi, M.,et al. Maillard reaction in vivo and its relevance to diseases: editorial and dedication. Glycoconjugate Journal. 2021;38(3):277–281. 

※8　Monnier, VM.,et al. Nonenzymatic browning in vivo: possible process for aging of long-lived proteins. Science. 1981;211(4481):491–493.

※9　Henning, C.,et al. Pathways of the Maillard reaction under physiological conditions. Glycoconjugate Journal. 2016;33:499–512.

※10　褐変とは一般に、食品の加工や保存、調理などで茶色に変化することを指します。

※11　Rondeau, P.,et al. The glycation of albumin: structural and functional impacts. Biochimie. 2011; 93(4):645–658. 

※12　Singh, VP., et al. Advanced glycation end products and diabetic complications. Korean Journal of Physiology and Pharmacology. 2014;18:1–14.

※13　Byun, K.,et al. Advanced glycation end-products produced systemically and by macrophages: a common contributor to inflammation and degenerative diseases. Pharmacology and Therapeutics. 2017;177:44-55.

※14　Rhee, SY.,et al. The role of advanced glycation end products in diabetic vascular complications. Diabetes and Metabolism Journal. 2018;42: 188–195.

※15　Forbes, JM.,et al. Role of advanced glycation end products in diabetic nephropathy. Journal of the American Society of Nephrology. 2003;14(8 Suppl 3):S254–S258.

※16　Genuth, S.,et al. Skin advanced glycation end products glucosepane and methylglyoxal hydroimidazolone are independently associated with long-term microvascular complication progression of type 1 diabetes. Diabetes. 2015;64:266–278.

※17　最終的な代謝産物とは、生物が体内で物質を代謝（同化・異化）する過程で、それ以上分解されない最終的に生成される物質のことです。（※分子栄養学とは⑤ 「代謝＝異化×同化」）