The Orthomolecular Times

2025.6.23 分子栄養学「脳の情報伝達の仕組み:ナトリウム・カリウム・カルシウムの連携で神経伝達物質が働く科学的メカニズム」

スポーツ栄養学

スポーツにも必須!エネルギーのための「解糖系と乳酸とナイアシン・マグネシウム」分子栄養学的必須栄養素


涼しくなってきたらスポーツの秋!
スポーツをするにも、私たちが生きる上で必須なのが「エネルギー」です。人が激しい運動を行うときや、赤血球が働くためのエネルギー(ATP)産生は、

・解糖系

というエネルギー代謝経路から供給されます。

解糖系を支える栄養素としては

・マグネシウム、ナイアシン、ビオチン

が重要です。今回は、解糖系の仕組みと解糖系を支える栄養素について一緒に学んでいきましょう。

激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないときや、エネルギー工場「ミトコンドリア」をもたない赤血球では、「解糖系」というエネルギー代謝経路を使ってATPを供給します。

有酸素運動:酸素があるときはミトコンドリアがフル回転:最大38個のATPを産生

私たちが生きるためのエネルギーは、

・ATP(アデノシン三リン酸、adenosine triphosphate)

という乾電池のような分子に貯められます。

身体の中に十分な酸素があるとき、効率的なATP産生が、ひとつひとつの細胞の中にあるエネルギーの発電所

・ミトコンドリア

でせっせと行われています。

●解糖系:マグネシウム、ナイアシン
●クエン酸回路:ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸
●電子伝達系:CoQ10、鉄

の栄養素の力を借り、この一連の3つの代謝経路で、1分子のグルコース(ブドウ糖)からたくさんのATP(合計最大38個)が効率よく産生されます。ウオーキングなどの有酸素運動では、この効率的なミトコンドリアで産生されるエネルギーが利用されます。

※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」

クエン酸回路は酸素がないと止まってしまう

しかし、大量のATPを産生できるクエン酸回路と電子伝達系は、

・酸素(さんそ)

が十分にあるときにだけ進むことのできるエネルギー代謝経路です。もともとクエン酸回路は酸素を使いませんが、酸素がなくなると止まってしまいます※1

そんなとき、ATP産生は解糖系のみを使ってエネルギーを作ります。

解糖系は「酸素を使わない」エネルギー代謝経路

解糖系は単独で、

・酸素がない

もしくは

・酸素が足りない

場合のエネルギー代謝経路としてATPを供給します。1分子のグルコース※2から10種類の酵素の力を借り、2個のATPが作られます。

この解糖系で活躍する栄養素が、

・マグネシウム(ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの補因子など)
・ナイアシン(NAD※3

です。解糖系では、酸素があるときは「ピルビン酸とATP」、

酸素がないときは「乳酸とATP」が最終産物として作られます。

解糖系のフル回転に大活躍:乳酸脱水素酵素(LDH)とナイアシン(NAD)

酸素が足りないとき、解糖系を経て作られた「ピルビン酸」はクエン酸回路に進まず、

・乳酸(にゅうさん)

に変わります。この変換に乳酸脱水素酵素(LDH:Lactate Dehydrogenase、以下LDH)、その補酵素としてナイアシン(NAD※3)が必要です。

筋肉のように活発に解糖系が進んでエネルギーを得る細胞では、酸素が足りないと乳酸が溜まります。

溜まった乳酸は、血液に乗って「肝臓」まで運ばれ、肝臓でLDHとナイアシン(NAD※3)の力を借りて再び「ピルビン酸」になり、補酵素・補因子として働く

・ビオチン※4、マグネシウム※5、ナイアシン(NAD※3※6

の力を借りながら、複数の酵素によって最終的に「グルコース」に戻されます(糖新生)。そしてまたエネルギー源のグルコース(血糖)として血液に乗って身体の中を運ばれていきます。

このグルコースと乳酸の体内循環を「コリ(Cori)回路」といいます。

解糖系にフル回転し続けてもらうために、栄養素として

・LDHの補酵素、ナイアシン(NAD※3

その他にもビオチン、マグネシウムが必要です。

LDHは、KYBグループの勧める詳細な血液検査の項目のひとつです。全身の細胞に存在しますが、特に肝臓・心臓・筋肉・赤血球に多く存在します。(※血液・尿検査の意義②

激しい運動時にスピーディーにATPを賄う解糖系

激しい運動などでは、酸素を使って回すクエン酸回路・電子伝達系は反応経路が長く、時間がかかり過ぎるため、ATPの供給が間に合いません。

そこで、筋肉では

・ATP-Cp系

というエネルギー代謝経路も存在しますが、そのほかの手段として「解糖系」がフル回転してATPを作り、エネルギーを供給します。

解糖系のエネルギー供給の限界時間は、約33秒間とみなされています。

赤血球は酸素を使わずに解糖系で自分のATPを作る

効率的なATP産生(クエン酸回路と電子伝達系)に必要な酸素を運ぶトラックの役割をしてくれる赤血球。

赤血球の中にはミトコンドリアは存在しないため、自分が働くためのエネルギーは酸素を使わずに

・解糖系

をフル回転してATPを産生し、そのエネルギーを使って仕事をしています。健全な赤血球にとって、

・解糖系に関わるLDH
・マグネシウムとナイアシン(NAD※3

は必須アイテムです。

まとめ:酸素を使わないエネルギー代謝にはマグネシウムとナイアシンが必須

私たちが生きていくうえで必須のエネルギーATP。

・激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないとき
・ミトコンドリアをもたない赤血球

は、「解糖系」というエネルギー代謝経路を使ってATPを得ます。解糖系で必要な栄養素は、

・マグネシウムとナイアシン(NAD※3

です。酸素を使わない解糖系では、乳酸を作って解糖系の反応を繰り返し、ATPを作ります。そして乳酸は酵素(LDH)とナイアシン(NAD※3)、さらにほかの酵素とナイアシン(NAD※3)、マグネシウム、ビオチンの助けを借りてエネルギー源であるグルコースに戻ります。

ATP産生のためにはマグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄を一緒に

酸素を使ったミトコンドリアでのエネルギーをつくるための栄養素(マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸、CoQ10、鉄)とともに、解糖系で作られた乳酸をナイアシン(NAD※3)、マグネシウム、ビオチンの力で再びエネルギー源に戻すことは、身体と心が健康に生きるうえで欠かせない重要な代謝です。

効率的なエネルギー代謝のため、ビタミンB群の中から「ビタミンB1だけ」「ナイアシンだけ」「ビタミンB6だけ」また8種類のビタミンB群の中から「2~3種類だけ」を選んで摂るよりも、ビタミンB群全体を一緒に摂った方が合理的であるとする意見が示されています※7
(※ビタミンB群は8種類一緒に摂ることが合理的!)

分子栄養学では、ビタミンB群はオーケストラのようにお互いに協力し合って働くため、ナイアシンだけでなく、ビタミンB群を一緒に摂取することをお勧めしています。

食べたものや乳酸から無駄な効率的にATPを獲得し、至適量の栄養素で疲れ知らずの身体作りを目指しましょう。

エネルギーをつくる栄養素を多く含む食品

※1 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p217. (2021)

※2 グルコースは、食べた糖質が消化された一番小さな単位分子のことです。タンパク質の一部(糖原性アミノ酸)はビタミンB6の力を借りてグルコースになることもできます(糖新生)。

※3 補酵素型を示しています。

※4 ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。

※5 エノラーゼの補因子として反応に必要です。

※6 グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの補酵素です。

※7 Kennedy, DO. (2016). B Vitamins and the Brain: Mechanisms, Dose and Efficacy—A Review. Nutrients, 8(2), 68.

RELATED

PAGE TOP