The Orthomolecular Times

2025.12.19 分子栄養学「高血糖とAGEsの関係~2型糖尿病を予防する生活習慣」

ヘルシーエイジング

分子栄養学「高血糖とAGEsの関係~2型糖尿病を予防する生活習慣」

私たちの身体で起こる「糖化」という現象をご存じでしょうか。クリスマス、お正月、忘年会・新年会と、糖質たっぷりのご馳走やお酒を嗜む機会の増えるこの季節。

今回は、

・高血糖が引き起こす「身体のコゲ」AGEs(終末糖化産物。以下、AGEs)と2型糖尿病の深い関係

についてわかりやすく解説いたします。2型糖尿病を予防し、健康的な年末年始を過ごすヒントを得て、素敵な新年を迎えましょう。

AGEs:終末糖化産物とは

糖化とは、体内のタンパク質・脂質などと還元糖(ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)など)が結びつく反応のことです。複雑かつ多様な経路を経て最終的にできる物質は、AGEsと呼ばれます※1、※2

このAGEsは「身体のコゲ」とも呼ばれ、老化やさまざまな病気の要因として研究されています。そして体内でのAGEs形成・蓄積を促進する危険因子のひとつが、今回の主題である高血糖です※1、※2
※老化を促進!? 糖化·AGEs(終末糖化産物)とは

令和6年、糖尿病患者は1,100万人に増加

厚生労働省が発表した「令和6年国民健康・栄養調査」によると※3

「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人

と推計され、平成9年以降増加し続けています。「糖尿病の可能性を否定できない者」は約 700 万人、合わせて1,800万人もの人が糖尿病またはその予備群と推計されています※4

糖尿病とは、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が長期間続く病気です。

この糖尿病と深く関わると報告されているのがAGEsです※1、※2、※5。高血糖の状態が続くとAGEsの体内での形成・蓄積が加速され、さまざまな健康被害を引き起こす可能性が報告されています※1、※2、※5

2型糖尿病とAGEs:悪循環のメカニズム

糖尿病には1型と2型があり、生活習慣が関わって発症するのが「2型糖尿病」です。

2型糖尿病では、血糖値を下げる働きをする「インスリン」というホルモンが出にくくなったり(インスリン分泌能の低下)、効きにくくなったり(インスリン抵抗性)することで、血糖値が高い状態が続きます。

高血糖が長期間続くことで、体内におけるAGEs形成・蓄積が加速し、研究では以下のような病気の発症・進行に関わる可能性が指摘されています。

・糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害など)※1、※2、※5、※6
・骨粗しょう症※7 
・アルツハイマー型認知症※8、※9  など

2型糖尿病の原因は、遺伝的素因(体質として糖尿病になりやすい)に加えて、環境的素因(食生活の乱れ、運動不足、過度のストレス※10、肥満など)があるといわれます。そして体内に蓄積するAGEsが2型糖尿病発症・進行の分子機序のひとつとして研究されています※11

スリムな若い女性にも潜む食後高血糖のリスク

「やせているし、若いから2型糖尿病とは無縁」と思っていませんか?

実は、令和6年国民健康·栄養調査では20~30代女性の16.6%がやせ(BMI 18.5未満)と報告されています※4

2021年の研究では、日本人のスリムな若い女性98名(18~29歳、BMI 16.0~18.49)を対象とした研究で、驚くべきことに13.3%に食後高血糖を引き起こす耐糖能異常が見つかりました※12。これまで肥満者で起こると考えられていたインスリン抵抗性などが、スリムな若い女性でも起こっていたことが報告されています※12

この研究対象となったスリムな女性たちの特徴は、食事からのエネルギー摂取量、身体活動量、筋肉量がいずれも少ないことでした※12。インスリン抵抗性を放置すると、将来的に2型糖尿病や肥満のリスクが高まります。

AGEs蓄積を加速させる生活習慣を見直す

AGEsは、高血糖以外にも以下の要因で体内蓄積が加速されることが報告されています。

・過剰または長期のアルコール摂取
・喫煙
・炎症
・酸化ストレス
・運動不足
・過度の紫外線暴露 など
※老化を促進!? 糖化·AGEs(終末糖化産物)とは

また、脂肪性肝疾患※13や歯周病※14、腸内環境の悪化※15、※16も、インスリン抵抗性による血糖値コントロール不良を招く可能性が指摘されています。

2型糖尿病の患者さんのすべての生活習慣に問題があるわけではありませんが、遺伝的素因に加えて環境的素因が関わることから、上記を参考に日々の生活習慣を見直すことが重要です。

適切な食事と運動、睡眠、ストレス対策、そして分子栄養学の推奨する1年に1回の細やかな血液検査。今の自分の状態を客観的に把握し、医師と相談しながら健康の維持増進を目指し、新たな1年を迎えましょう。
※食事の基本

※1 Khalid, M.,et al. Advanced Glycation End Products and Diabetes Mellitus: Mechanisms and Perspectives. Biomolecules. 2022;12(4):542.

※2 Zhang, Y.,et al. Advanced Glycation End Products in Disease Development and Potential Interventions. Antioxidants (Basel). 2025;14(4):492.

※3 国民健康・栄養調査は、健康増進法に基づいて毎年実施されているものです。令和6年(2024年)10〜11月、日本全国から無作為に抽出された10,414世帯が身体状況・栄養摂取状況・生活習慣について回答したものを、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所が集計を行っています。

※4 出典:「令和6年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)( https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf )(2025年12月15日に利用)

※5 Yamagishi, S. Role of Advanced Glycation Endproduct (AGE)-Receptor for Advanced Glycation Endproduct (RAGE) Axis in Cardiovascular Disease and Its Therapeutic Intervention. Circulation Journal. 2019;83(9):1822-1828.

※6  Singh, VP., et al. Advanced glycation end products and diabetic complications. Korean Journal of Physiology and Pharmacology. 2014;18(1):1-14. 

※7 de Paula, FJ.,et al. Novel insights into the relationship between diabetes and osteoporosis. Diabetes-Metabolism Research and Reviews. 2010;26:622-630.  

※8 Sato, T.,et al. Toxic Advanced Glycation End Products (TAGE) Theory in Alzheimer’s Disease. American Journal of Alzheimer's Disease and other Dementias. 2006;21(3):197-208.

※9 Michailidis, M.,et al. Alzheimer’s Disease as Type 3 Diabetes: Common Pathophysiological Mechanisms between Alzheimer’s Disease and Type 2 Diabetes. International Journal of Molecular Sciences. 2022;23(5):2687.
 
※10 Hackett, RA.,et al. Type 2 diabetes mellitus and psychological stress - a modifiable risk factor. Nature Reviews Endocrinology. 2017;13(9):547-560.

※11 Zhou, M.,et al. Activation and modulation of the AGEs-RAGE axis: Implications for inflammatory pathologies and therapeutic interventions – A review. Pharmacological Research. 2024;206:107282.

※12 Sato, M.,et al. Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women.  Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 2021;106(5):e2053-e2062.

※13 Kadowaki, S., et al. Fatty Liver Has Stronger Association With Insulin Resistance Than Visceral Fat Accumulation in Nonobese Japanese Men. Journal of the Endocrine Society. 2019;3(7):1409-1416.

※14 Blasco-Baque, V.,et al. Periodontitis induced by Porphyromonas gingivalis drives periodontal microbiota dysbiosis and insulin resistance via an impaired adaptive immune response. Gut. 2016;66(5):872-885.

※15 Takeuchi, T.,et al. Gut microbial carbohydrate metabolism contributes to insulin resistance. Nature. 2023;621(7978):389-395.

※16 Iatcu, CO.,et al. Gut Microbiota and Complications of Type-2 Diabetes. Nutrients. 2021;14(1):166.

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