The Orthomolecular Times

2026.3.19 分子栄養学「毎日の食事で鉄を補う理由|体内の鉄の働きと毎日の鉄の出納を解説」

妊娠前・妊娠中・産後

分子栄養学「毎日の食事で鉄を補う理由|体内の鉄の働きと毎日の鉄の出納を解説」

私たちが生きるための必須栄養素、鉄。

今回は、

・鉄の主な働き
・体内における鉄の分布
・なぜ毎日食事で鉄を補う必要があるか

など、鉄にまつわる基礎的なお話を中心に解説いたします。


鉄は “生命維持” に欠かせない微量ミネラル

 鉄は、健康で平均的な成人の体内に約3~4g存在する微量ミネラルです※1、※2

しかしこの微量な鉄が、私たちの生命を支えるうえで極めて重要な役割を果たしています。具体的には、

・赤血球(血液中で、肺から全身の細胞に酸素を運ぶ細胞)の構成成分
・細胞がエネルギーをつくる働き
・遺伝情報であるDNA複製と修復
・さまざまな酵素の補因子

など、生存そのものに関わる機能を担っています※3

生命は代謝(体内における化学反応)に支えられており、酵素は代謝を効率よく進める必須の役割を担います。補因子とは、例えるなら家を建てる大工さんの道具のようなもの。この道具がないと、大工さん(酵素)は仕事(代謝の手助け)ができません。
※分子栄養学とは⑦「代謝と酵素その1(化学反応とは)」

鉄がなければエネルギーやDNAもつくれず、私たちは生きていくことができない――これが、ごくわずかな量でありながら、鉄が私たちの生命を支えるうえで極めて重要である理由です。

体内の鉄はどこにある? 

それでは私たちの健康に欠かせない鉄は、体のどこに存在しているでしょう。

最も多いのが、赤血球に含まれるヘモグロビン(酸素を運ぶタンパク質)の成分としての鉄で、体内の鉄全体の約3分の2を占めています※1、※2。ヘモグロビンは肺で取り込んだ酸素を結合して全身の細胞へ届け、その細胞の中にあるミトコンドリア(エネルギーをつくる “発電所” のような細胞小器官)でのエネルギー産生を支えています。

次に多いのが、貯蔵鉄(フェリチンなど)と呼ばれる鉄で、体内の鉄の約3分の1弱※5が肝臓・脾臓・骨髄などに蓄えられています。貯蔵鉄は、いわば体内における「鉄の貯金」です。生物学的に利用されなかった余剰な鉄はフェリチンなどとして貯められ※6、体内で鉄が足りないときには、ここから取り出して使われます※3、※7

3番目に多いのが、筋肉に含まれるミオグロビンです※5。ヘモグロビンが運んできた酸素を筋肉の中で受け取り貯蔵し、ミトコンドリアに届ける橋渡し役を担います。

このほか、微量な鉄が
・血液中で鉄を輸送するタンパク質(トランスフェリン)に結合する
・さまざまな酵素の補因子
などとして存在します。


鉄の出納:毎日約1mgの損失と食事による補給の仕組み

 体内の鉄は驚くほど効率よく再利用されています。

例えば健康な赤血球の寿命は約120日ですが、寿命を終えた赤血球から回収された鉄は積極的に体外に排泄されることなく、新しい赤血球をつくるためなどに再利用されます。

健康な成人では毎日2,000億個もの新しい赤血球がつくられており※8、この鉄のリサイクルが全身への酸素供給を支え続けます。

しかし健康な人であっても、毎日約1mgほどの鉄が消化管粘膜や皮膚の剥がれ落ちなどにより生理的に失われることが示されています※9。これは、毎日大量の赤血球がつくられるときに鉄が一定量必要な一方で、ほんの少しずつ鉄が失われていることを意味します。

これを補うのが、日々の食事から摂取される鉄です。1日3食のバランスのよい食事からの鉄の吸収率を約10%とすると、実際に体に取り込まれる量は約1mg程度、これがほぼ1日の損失分(約1mg)を補う計算になります。

もし補給が追いつかなければ、貯蔵鉄から不足分を補い続けることになります。鉄の足りない状態が長く続けば、やがて貯蔵鉄が枯渇します。

鉄は人体で合成できないため、食事から適量の鉄を摂取・吸収することが、体内の鉄の量を調整するために重要であることが示されています※2


鉄欠乏・鉄欠乏性貧血のリスクと主な原因

例えば下記のような状況が続くと、貯蔵鉄は徐々に減少し、鉄欠乏のリスクが高まることが指摘されています※10

・食事からの摂取不足
・需要の増加(成長、妊娠など)
・鉄の吸収不良
・出血量が多い(過多月経、消化管出血など) など

鉄欠乏を長年放置すると、ヘモグロビンの量が低下する「鉄欠乏性貧血」となるリスクが高まります※10

近年の英語圏の論文では、「鉄欠乏性貧血の有無に関わらず貯蔵鉄の少ない状態」を絶対的鉄欠乏と呼び、疲労感・めまい・頭痛・集中力の低下などの症状が出る可能性を報告するものがあります。

そして症状がなくとも鉄欠乏の原因を突き止め、健康維持のため、早めに対策する必要性が指摘されています※11、※12

しかしその一方で、貯蔵鉄が十分にあったとしても、炎症などにより貯蔵鉄を使えないなどの機能性鉄欠乏という状態も報告されています。
※「なぜか疲れが取れない」原因は貯蔵鉄不足?


定期的な血液データ解析に基づく個別化栄養療法(金子メソッド)のススメ

鉄欠乏は、特に5歳以下の乳幼児、成長期、妊娠中・産後、有経女性などにおいてハイリスクであることが示されています※10。国や性別を問わず、世界中の貧血の最も多い原因が鉄欠乏によるものであると報告されています※13

女性は、初潮から閉経まで約35~40年間、毎月の月経により平均15~28mg/月の鉄が失われ※14、日本では、20~49歳の女性の約6人に1人(約17%)が貧血であるとの報告もされています※15

食事から摂れる鉄には、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」(吸収されやすい)と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の2種類があり、ヘム鉄を中心とした食事由来の鉄を意識的に摂ることを勧める論文が存在します※16

しかし貧血には鉄欠乏が原因となる鉄欠乏性貧血のほか、たくさんの種類があります。

自己判断でやみくもに鉄を摂るのではなく、分子栄養学の提唱する血液データ解析に基づく個別化栄養療法(金子メソッド)により毎年1回の定期的な血液検査、必要に応じた消化管の検査などを実施し、個別具体的に必要な対策を見極めながらの鉄欠乏対策を行うことを推奨いたします。

医師による客観的なモニタリングを通し、良く噛んで腸内環境を整え、毎日のバランスの良い食事と良い生活習慣、効率的な健康維持増進を一緒に目指しましょう。
※金子メソッド(Kaneko’s method)とは?血液データ解析に基づく個別化栄養療法

※1 Koleini, N.,et al. Ironing out mechanisms of iron homeostasis and disorders of iron deficiency. Journal of Clinical Investigation. 2021;131(11):e148671.

※2 Ganz, T. Systemic Iron Homeostasis. Physiological Reviews. 2013;93(4):1721-1741.

※3 Dutt, S.,et al. Molecular mechanisms of iron and heme metabolism. Annual Review of Nutrition. 2022;42:311-335.

※4 Lopez, A.,et al. Iron deficiency anaemia. Lancet. 2016;387(10021):907-916.

※5 医療情報科学研究所『からだがみえる 人体の構造と機能 第1版』(メディックメディア、2023年)342ページ

※6 Mleczko-Sanecka, K.,et al. Cell-type-specific insights into iron regulatory processes. American Journal of Hematology. 2021;96(1):110-127.

※7 糸川 嘉則(編)『ミネラルの事典(新装版)』(朝倉書店、2021)221ページ

※8 Muckenthaler, MU.,et al. A Red Carpet for Iron Metabolism. Cell. 2017;168(3):344-361.

※9 Green, R.,et al. Body iron excretion in man: a collaborative study. American Journal of Medicine. 1968;45(3):336-353.

※10 Pasricha, R.,et al. Iron deficiency. Lancet. 2021;397(10270):233-248.

※11 Auerbach, M.,et al. Iron Deficiency in Adults: A Review. JAMA. 2025;333(20):1813-1823.

※12 Camaschella, C. Iron deficiency. Blood. 2019;133(1):30-39.

※13 Jimenez, K.,et al. Management of Iron Deficiency Anemia. Gastroenterology and hepatology (N Y). 2015;11(4):241-250.

※14 出典:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(厚生労働省)( https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316466.pdf )(2026年3月13日に利用)

※15 Hisa, K.,et al. Prevalence of and factors related to anemia among Japanese adult women: Secondary data analysis using health check-up database. Scientific Reports. 2019;9:17048.

※16 Zijp, IM.,et al. Effect of tea and other dietary factors on iron absorption. Critical Reviews in Food Science and Nutrition. 2000;40(5):371-398. 

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