むくみの原因は血液中のアルブミン不足?毛細血管の水分量を保つタンパク質のメカニズム


むくみのメカニズムのひとつに、タンパク質が関わる場合があることをご存じですか?
今回は、
・むくみと血漿(けっしょう)タンパク質「アルブミン」
の関係について、医師がわかりやすく解説いたします。
血漿タンパク質「アルブミン」が関わるむくみとは?

健康で標準的な成人の場合、私たちの身体は体重の約60%が水分でできています。
この水分にはさまざまな物質(電解質や非電解質)が溶けており、この水分がスムーズに体内を循環することで、体内の恒常性(ホメオスタシス)を維持するという非常に大切な役割を担っています※1。
この水分のことを、体液(たいえき)といいます。
体重の60%を占める体液は、
・細胞内液(体重の約40%):細胞の中を満たしている水分
・細胞外液(体重の約20%):細胞の外にある水分
に分けられます。
細胞外液はさらに、
・血管の中を流れる血液中の液体成分「血漿(けっしょう)」(体重の約5%)
・細胞と細胞のすき間を満たす間質液(かんしつえき)など(体重の約15%)
に分けられます。そしてこれらの水分がそれぞれの場所に適度に分布することで、細胞の健康が維持されます。
今回の主題である「血漿タンパク質の関わるむくみ」とは、本来、血漿と間質液との間でバランスを取るべき水分が、間質液に過剰に貯まった状態を指しています※2。
血漿タンパク質とは

血漿とは、血液から血球成分(赤血球、白血球、血小板)を除いた液体成分のことです。
血漿には栄養素、電解質、ホルモン、タンパク質(アルブミン、グロブリンなど)などが含まれています。この血漿に含まれるタンパク質の総称を血漿タンパク質と呼んでいます。
浸透圧とは何か|水を引き寄せる力の正体

それでは次に、むくみを考える際の基礎知識となる「浸透圧(しんとうあつ)」について説明いたします。
浸透圧とは、簡単に言えば
「水を引き寄せる力」
のことです。これは具体的に何を意味するでしょう?
例えば、塩水を想像してください。濃い塩水と薄い塩水が
・半透膜(はんとうまく)
で隔てられている場合、薄い塩水の水は半透膜を通って濃い塩水の方に移動し、両方の濃度を同じにしようとする性質があります。
この現象を「浸透(しんとう)」といい、浸透しようとする圧力のことを「浸透圧(しんとうあつ)」といいます。
半透膜とは、一部の成分は通しますが、他の成分は通さない膜のことです。
なぜここで浸透圧について学んだかというと、私たちの身体をつくる
・細胞膜
・毛細血管壁
などが、半透膜としての性質をもつからです※3。
細胞膜を隔てた細胞内外の浸透圧に影響を及ぼすのは、カリウムイオンやナトリウムイオンの細胞内外の濃度差です。
(※細胞の健康を支える!体液と電解質(でんかいしつ)の基礎知識)
一方、毛細血管の浸透圧に影響を与えるのが、
・アルブミン
などの血漿タンパク質です※4 。
通常、毛細血管からは水やナトリウムイオンは通過しやすいですが、大きな分子であるタンパク質は毛細血管の外に出にくくなっており、血管の中に留まります。そしてこのタンパク質が、水を引き寄せる力のもととなります。
そしてこの血漿に含まれるタンパク質による浸透圧を「膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ)」と呼びます。
アルブミンが浸透圧に関わる理由

血漿には様々なタンパク質が含まれていますが、その中で最も量が多く、膠質浸透圧に大きく影響するのがアルブミンです※2。
アルブミンは肝臓で合成されるタンパク質で、血漿タンパク質の大部分を占めています※5。
また血漿にはアルブミンが多く、間質液には少量のアルブミンしか存在しません。そのため、毛細血管内の血漿の方が間質液よりもタンパク質の濃度が高くなります。
そして血漿中のアルブミンが水を引き留め、間質液から毛細血管内へ水を引っ張る力、つまり浸透圧を生み出します※2。
つまり、血漿中のアルブミン濃度が正常に保たれていれば、血圧によって出ていく水がアルブミンによってまた毛細血管内に引き戻され、水は適切に毛細血管の中に保持されます※4。
このとき、水を毛細血管内に引っ張る力(膠質浸透圧)と、水が毛細血管外に出ていく力(毛細血管圧:静水圧)は、つり合っています。
アルブミン濃度の低下とむくみのメカニズム
一方、血漿中のアルブミン濃度が低下すると、血漿の膠質浸透圧が低下します。
つまりアルブミンが少ない=濃度が低くなることにより、毛細血管の中に水を引き寄せる力が弱くなるということです。すると毛細血管内と毛細血管外の浸透圧バランスを取ろうとして、毛細血管から間質液へしみ出す水が増え、間質液に水が過剰に貯まり、むくみが生じます※2。
以上が、血漿タンパク質「アルブミン」がむくみに関わるメカニズムです。
低アルブミン血症と炎症:定期的な血液検査のススメ

高齢者において、アルブミン値の低下は全死亡率との明確な関連が示されています※5、※6。また低アルブミン血症は、炎症が原因であることが多いとの報告もあります※7。
むくみは心臓や腎臓、肝臓などの病気が原因で起こる場合もあります。分子栄養学では定期的に行う詳細な血液検査の実施により、自分自身の状態を把握することによる一次予防、健康維持増進を目指します。
医師とともに詳しく血液検査データをモニタリングし、必要に応じて適切な抗炎症対策を講じ、心身ともに健康な身体づくりを目指しましょう。
※1 恒常性(ホメオスタシス)とは、身体の外部環境や内部環境が変化しても、身体の状態(体温、体液、血圧、血糖値、免疫など)を一定に保とうとする性質のことです。
※2 Manolis, AA.,et al. Low serum albumin: A neglected predictor in patients with cardiovascular disease. European Journal of Internal Medicine. 2022; 102: 24-39.
※3 心臓から出発した動脈は枝分かれしながら細動脈→毛細血管へと続きます。毛細血管は動脈と静脈の末端から出た血管で、とても細かい網目状になっており、組織や器官(臓器)に広大なネットワークをつくって動脈と静脈をつなぎます。毛細血管の壁はとても薄く、そのまま細胞に栄養素や酸素を届けたり、細胞で出た老廃物や二酸化炭素を受け取ったりすることができます。(※血管は栄養素を運ぶ!細胞の命綱「血管の種類とはたらき」)
※4 Levitt, DG.,et al. Human serum albumin homeostasis: a new look at the roles of synthesis, catabolism, renal and gastrointestinal excretion, and the clinical value of serum albumin measurements. International Journal of General Medicine. 2016; 9: 229-255.
※5 Keller, U. Nutritional Laboratory Markers in Malnutrition. Journal of Clinical Medicine. 2019; 8(6) : 775.
※6 Corti, MC.,et al. Serum albumin level and physical disability as predictors of mortality in older persons. JAMA. 1994; 272(13): 1036-1042.
※7 Soeters, PB.,et al. Hypoalbuminemia: Pathogenesis and Clinical Significance. Journal of Parenteral and Enteral Nutrition. 2019; 43: 181-193.