2025.6.23 分子栄養学「脳の情報伝達の仕組み:ナトリウム・カリウム・カルシウムの連携で神経伝達物質が働く科学的メカニズム」
分子栄養学は食べる脂質が大切「日本人に関する研究」オメガ3:オメガ6

ご存じでしょうか。食べるあぶら(脂質)がとても大事だということ。
ダイエットの敵として敬遠されがちな脂質ですが、食べるあぶらの質を選ぶことが健康維持に役立つことが期待されています。

オメガ3:オメガ6のバランスの崩れが問題?
適度なオメガ6脂肪酸は健康維持にとって必須ですが、
・オメガ6(n-6系)脂肪酸(以下、オメガ6脂肪酸)摂取量の増加、オメガ3(n-3系)脂肪酸(以下、オメガ3脂肪酸)摂取量の低下によるオメガ3:オメガ6のバランスの崩れ
が生体内で余分な炎症を引き起こし、心血管疾患、脂肪肝、炎症性腸疾患、アレルギーなどさまざまな疾患に関わっているのではないかと世界中で研究が進められています※2。
そこで分子栄養学では、人生100年時代の健康管理の主軸のひとつとして、食べるあぶらの質を積極的に選んで食べることをお勧めしています。

日本人を対象とした研究では、
・血清EPA(エイコサペンタエン酸。オメガ3脂肪酸)/ AA(アラキドン酸。オメガ6脂肪酸)比
が高いほど心筋梗塞などの心血管系疾患による死亡率が低く、EPA/AA比の低下ががん死亡の重大なリスクと報告されています。
オメガ3:オメガ6=1:2で心筋梗塞の死亡リスクが減少:久山町研究(日本)
現在、脂質で注目されているひとつの項目が、
・摂取するオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の比
です。日本人の集団においても血液中のオメガ3とオメガ6の比が健康に重要であるとする論文が出ています。
1つめは血液中のオメガ3脂肪酸(EPA:エイコサペンタエン酸)とオメガ6脂肪酸(AA:アラキドン酸)の比(血清EPA/AA比)が高ければ高いほど、心筋梗塞などの心血管系疾患による死亡率が低いという報告です※4。
2つめは、同じく血清EPA/AA比のレベルの低下が、がん死亡の重大なリスクとなることが示されたものです※5。
これらは福岡県久山町の住民の皆さんを対象に、九州大学により1961年から毎年続いている疫学研究「久山町研究」の報告です。久山町は人口約8,000人の町で、職業や人口全体の年齢構成、摂取している栄養素量などが全国平均とよく一致しているということで、日本人の平均的な研究対象の集団として医学の分野で参考にされています※6。
これらをふまえると、日本人はEPAをしっかりと摂取した方が心血管疾患、がんのリスクが下がる可能性があるということです。

10年間で日本人のEPAが減り、AAが増えたという報告
しかし残念ながら、同じく久山町研究において、10年間の中で80代を除く各世代で、
・血清EPA/AA比が減った
という報告があります※3。自分の食生活を見直し、ぜひ積極的に小さな青魚を中心として、魚介類を1日1回意識して食べる機会をつくりましょう※7。その小さな積み重ねが病気を予防する可能性につながります。

今回のまとめ
適切なオメガ3:オメガ6脂肪酸のバランスでEPAを摂取することが、日本人の健康、心血管疾患・がんのリスクが下がる可能性が示唆されています。
「今現在自分の食べている食事はどのくらいのオメガ3(n-3系)脂肪酸とオメガ6(n-6系)脂肪酸の比になっているのかな?」
どんな食品にオメガ3(n-3系)脂肪酸とオメガ6(n-6系)脂肪酸がどのくらい含まれているか。こちらの記事 『※食品中のオメガ3(n-3系)脂肪酸、オメガ6(n-6系)脂肪酸」魚介類・肉・卵・油脂類編』では、
・普段食べている食品【魚介類・肉・卵・油脂類】の1食分
にどのくらいのオメガ3(n-3系)脂肪酸(以下、オメガ3脂肪酸)、オメガ6(n-6系)脂肪酸(以下、オメガ6脂肪酸)が含まれているかがわかります。ぜひ毎日の健康的な分子栄養学の食事に、オメガ6脂肪酸の量の適正化・オメガ3脂肪酸の十分な摂取にお役立てください。
適切で良質な脂質の摂取で、分子栄養学の食事をさらに健康増進に生かしていきましょう。
※2 Patterson E.,et al. Health Implications of High Dietary Omega-6 Polyunsaturated Fatty Acids. Journal of Nutrition and Metabolism, 2012: 539426.(2012)
※3 Honda T.,et al. Changes in the Eicosapentaenoic Acid to Arachidonic Acid Ratio in Serum over 10 Years in a Japanese Community: The Hisayama Study. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, 30(6): 589-600.(2023)
※4 Ninomiya T.,et al. Association between ratio of serum eicosapentaenoic acid to arachidonic acid and risk of cardiovascular disease: the Hisayama Study. Atherosclerosis,231(2):261-267.(2013)
※5 Ninomiya T.,et al. Association between ratio of serum eicosapentaenoic acid to arachidonic acid and risk of cardiovascular disease: the Hisayama Study. Journal of Epidemiology, 27(12):578-583.(2017)
※6 清原 裕.「Ⅰ.疫学 1.久山町研究から」.日本内科学会雑誌,102 (2):274-281.(2013)
※7 マグロ、クジラ、キンメダイ、メカジキなどについては水銀が含まれるため、妊婦さんは食べ方に適切な量とバランスへの注意が必要です。